無気力な人間達[4]







人間の笑顔が嫌いだったり、

世の中の波が嫌いだったり、

自分の行動が嫌いだったり、

それでも日々は続いていきます。


自分を特別と思いたくて世の中に出ている人間達。

こんな自分は、本気を出していないなんて思う人間達。

社会に適応しようと、自然に流される人間達。

そうやって、高いところから見下ろしたふりをしている自分。

そんな自分が嫌いです。

「生きたいけど、死にたいな」

 そんな僕は彼に言いました。

「生きたいとか、死にたいとかさ」

 彼は言いました。

「ばかじゃないの?」

 彼は続けました。

「君は、今、生きてるよ。ほら俺と話している。死んだことは、死んでから考えな」

 僕は反論しました。

「抽象的な表現だね」

彼「事実だよ」

僕「君にとって、生きるって何?」

彼「寝ること。食べること。性行為すること」

僕「あまりに人間らしいね」

彼「俺は、他に何かを求めているお前のほうが、人間らしいと思うよ」

僕「そう、かな」

彼「そうだよ。食べて、寝て、性行為、動物だって出来るよ。それ以外のこと人間にしかできないことだ」

僕「確かに。それは、生きる意志なのかな?」

彼「本当に死にたい人間は、食べたり、寝たり、しない」

僕「無気力な人間は?」

彼「それは、きっと最高の自由だろ。何にでもなれるし、何にでもなれない。世の中に流されることもない。自分を飾ろうとも、思わない」

 

「生きる。ただ、それだけだ」

僕「うん。特別な・・・いや、オリジナルの生き方なんて出来ないよね」

彼「解かってるじゃないか。誰もが、何かしらのパターンに当てはまって生きている。いや、死さえ、パターンの一つだ。総理大臣になったって、総理大臣になった人間は何人もいるだろ?」

 屋上から、彼女は外と見下ろしていました。
 突然、僕に話しかけてきた女の子です。

「あ」

 彼女は声を上げました。

彼「どうした?」

 ばん。
 風船の割れるような、大きな音がしました。

彼女「手前のビルを見ていたら、人が飛び降りた」

 彼はゆっくりと、彼女の右隣に歩み寄りました。
 僕もゆっくりと、彼女の左隣に歩み寄ります。

 三人が列を作りました。
 人が倒れていました。素人の僕から見ても解かりました。飛び降りた人は死んでいました。手や足が変な方向に曲がっていました。頭からは血が、スルスルと流れていました。

彼「あれが、ゲームオーバだ」

彼女「人生の終りね。私、観ちゃった」

彼「よかったじゃないか」

彼女「良くないわ」

彼「君に言ったのではない。飛び降りた人間に、だ。少なくとも、君や僕らの記憶には、あの人間が心に残るだろ?」

僕「そうゆう問題かな?」

彼「生きるってことは、そうゆう問題だ」

 

「誰かの記憶に、どんな形であれ残すことだ」

彼女「私は、あの人のこと忘れない」

彼「俺もだ」

僕「そうだね」

 たった今、飛び降りた人間のことを忘れないなんておかしいですが、それは真実でした。
 冷たい風でも、温かい風でも、それを感じることの出来る僕達は生きています。
 死んでしまっては、感じることが出来なくなってしまうのでしょう。考えることも、人間なんだと僕は思いました。

 彼女は言いました。

彼女「自殺も、オリジナルな人生?」

彼「そうだな」

彼女「ふーん。そうなんだ・・・」

彼「自殺したいの?」

「オリジナルな人生を生きたい」

彼「それは、不可能だよ」

僕「どうして?」

彼「無気力な人間にする質問じゃないね」

 そう言って、彼は空を観ます。

 彼女は手すりから街を観ています。


 飛び降りた人への、ご冥福を祈っているのでしょう。

 僕は逆の行動をしました。
 屋上から飛び降りた人を観ます。
 まだ周囲の人に発見されていないようでした。

 静かな死体が、僕らを一つにしました。


 それぞれ観るものは違いますが、心が一つになった瞬間でした。



続く…↓


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