人間の笑顔が嫌いだったり、
世の中の波が嫌いだったり、
自分の行動が嫌いだったり、
それでも日々は続いていきます。
自分を特別と思いたくて世の中に出ている人間達。
こんな自分は、本気を出していないなんて思う人間達。
社会に適応しようと、自然に流される人間達。
そうやって、高いところから見下ろしたふりをしている自分。
そんな自分が嫌いです。
「生きたいけど、死にたいな」
そんな僕は彼に言いました。「生きたいとか、死にたいとかさ」
彼は言いました。「ばかじゃないの?」
彼は続けました。「君は、今、生きてるよ。ほら俺と話している。死んだことは、死んでから考えな」
僕は反論しました。「抽象的な表現だね」
彼「事実だよ」
僕「君にとって、生きるって何?」
彼「寝ること。食べること。性行為すること」
僕「あまりに人間らしいね」
彼「俺は、他に何かを求めているお前のほうが、人間らしいと思うよ」
僕「そう、かな」
彼「そうだよ。食べて、寝て、性行為、動物だって出来るよ。それ以外のこと人間にしかできないことだ」
僕「確かに。それは、生きる意志なのかな?」
彼「本当に死にたい人間は、食べたり、寝たり、しない」
僕「無気力な人間は?」
彼「それは、きっと最高の自由だろ。何にでもなれるし、何にでもなれない。世の中に流されることもない。自分を飾ろうとも、思わない」
「生きる。ただ、それだけだ」
僕「うん。特別な・・・いや、オリジナルの生き方なんて出来ないよね」
彼「解かってるじゃないか。誰もが、何かしらのパターンに当てはまって生きている。いや、死さえ、パターンの一つだ。総理大臣になったって、総理大臣になった人間は何人もいるだろ?」
屋上から、彼女は外と見下ろしていました。突然、僕に話しかけてきた女の子です。
「あ」
彼女は声を上げました。彼「どうした?」
ばん。風船の割れるような、大きな音がしました。
彼女「手前のビルを見ていたら、人が飛び降りた」
彼はゆっくりと、彼女の右隣に歩み寄りました。僕もゆっくりと、彼女の左隣に歩み寄ります。
三人が列を作りました。
人が倒れていました。素人の僕から見ても解かりました。飛び降りた人は死んでいました。手や足が変な方向に曲がっていました。頭からは血が、スルスルと流れていました。
彼「あれが、ゲームオーバだ」
彼女「人生の終りね。私、観ちゃった」
彼「よかったじゃないか」
彼女「良くないわ」
彼「君に言ったのではない。飛び降りた人間に、だ。少なくとも、君や僕らの記憶には、あの人間が心に残るだろ?」
僕「そうゆう問題かな?」
彼「生きるってことは、そうゆう問題だ」
「誰かの記憶に、どんな形であれ残すことだ」
彼女「私は、あの人のこと忘れない」
彼「俺もだ」
僕「そうだね」
たった今、飛び降りた人間のことを忘れないなんておかしいですが、それは真実でした。冷たい風でも、温かい風でも、それを感じることの出来る僕達は生きています。
死んでしまっては、感じることが出来なくなってしまうのでしょう。考えることも、人間なんだと僕は思いました。
彼女は言いました。
彼女「自殺も、オリジナルな人生?」
彼「そうだな」
彼女「ふーん。そうなんだ・・・」
彼「自殺したいの?」
「オリジナルな人生を生きたい」
彼「それは、不可能だよ」
僕「どうして?」
彼「無気力な人間にする質問じゃないね」
そう言って、彼は空を観ます。彼女は手すりから街を観ています。
飛び降りた人への、ご冥福を祈っているのでしょう。
僕は逆の行動をしました。
屋上から飛び降りた人を観ます。
まだ周囲の人に発見されていないようでした。
静かな死体が、僕らを一つにしました。
それぞれ観るものは違いますが、心が一つになった瞬間でした。
続く…↓
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