■ミナミ 過去■
歩いて、休んで、歩いて、休んで。
中学時代の僕は、毎日がその繰り返しだった。
きっと、中学時代から現在までの自分の話を聞いて面白かったという人間はいないだろう。一部を除けば…。
人間は誰にも黒い部分を持っている。
その黒さとは、冷血、残酷といったものだ。他人の不幸を笑う冷笑はいつの時代も絶えないのである。『いじめ』など社会的差別が無くならないのも、そのような人間の中にある黒い無意識が強いからだ思う。
そんな人間の黒い部分に興味を持ち始めたのが中学時代だった。
校舎の裏で殴られている人間がいる。僕は微笑んだ。
給食の時間、食べ物を争って喧嘩する人間がいる。僕は微笑んだ。
ニュースで銀行強盗がありました。僕は微笑んだ。
保険金殺人事件です。僕は微笑んだ。
学校に乱入した男が次々に生徒を刺しました。僕は微笑んだ。
いちいち黒い部分に接触すると、微笑みを浮かべてしまう。それは、朝に顔を洗うようなものだった。
その行為を隠すのは大変だった。僕のような人種がどのような扱いを受けてきているか知っている。精神異常者という社会的シールを張られてしまうことを恐れていた。中学生といえども、これは避けるべき現実であった。この年齢でしかも、地元の中学校なのだから噂が広まるのも早い。親に知られたら面倒なことになりかねない。
黒い自分を隠す必要があるのは、当然の選択であった。
「ミナミ、今日塾どうする?」
と友人が話しかけてきた。高校に入るため塾に通っていた。その塾では僕は結構名前が知れていた。この塾で僕は活発という人柄で知れ渡っていた。もちろん、良い評判ではない。不良というレッテルの意味での活発だ。不良は一般的に見たらデメリットが多いように考えられていつが、使い勝手によってはとても便利だ。学ランの下に赤いシャツを着て、第二ボタンまで外す。ズボンを少し下げる。それでワックスで髪を立てれば完璧だ。寄ってくるやつは寄ってくるが、寄ってこないやつも多い。
女子には適当にもてた。
中学校では、内申書というものがあるから真面目という人間で偽っていた。Yシャツの第一ボタンまでしめ、もちろん学ランの第一ボタンもしめていた。ズボンはちゃんとはき、優等生を気取っていた。
「塾?行くよ」
目線だけ動かしながら言った。この友人とは塾も中学校も同じだ。「ミナミ、塾と学校とで全然違うな、俺塾でお前の周りにいる連中恐くて近寄れないよ」
「中学では真面目になってなきゃ、内申あぶねーだろ。そこらへんの不良と一緒にすんなよ。あいつらは、ただのバカだ」
友人は目を大きくした。「お前って頭いいな」
「それくらい誰だって考えるって、なんだったらお前も俺の真似してみろよ」
友人は真剣に悩むように顎に手を置いた。「…考えてみる」
といいのこして去っていった。この友人も他の友人も、俺が黒い部分を隠すためにこのような行為をしていることに気が付いていない。二重構造、そう言ってもいいくらい当時の僕は考えていた。いや、それくらい世間に知れ渡ることを恐れていた。
友人と不良についての、どうでもいい話をしてから三日目のことだった。
塾に友人がやってきた。
学ランを第二ボタンまで外してYシャツをズボンから出している。天然パーマの髪にワックスを付け無理やり立たせ、意味不明な髪型になっていた。ズボンは上がったままだ。
だいぶ不恰好であった。
「……」
僕はさすがに言葉を失った。僕の周りで戯れていた不良達が「あいつ調子こいてんな」といいだした。
次の日、学校で友人が話しかけてきた。
「昨日の俺、どうだった」
友人が頬を掻きながら言った光景は、今でも忘れられない。「よかったよ。ヤンキーっぽかった」
僕は嘘を言った。友人は密かに照れたのを僕は見逃さない。昨日友人が帰ったあとの不良達の会話を僕は仲間に入って聞いていた。
A「あいつ何急に調子こいてんだよ」
B「マジうぜー、ボコんねー?」
C「いいねー、俺最近金ねーし。金もパクろーぜ。」
B「おし、明日は焼肉だな」
A「ミナミはどうするよ?」
ミナミ「……。」
「マジで?じゃあ今日も塾あれで行こうかな」
と友人。「ああ、塾だけだけど不良デビューに乾杯だ」
と僕。「これで俺もミナミみたいに女にモテルな。お前のおかげだよ」
皮肉にも僕は友人に感謝されていた。今日お前はボコられるんだよ。カツアゲされるんだよ。「それでは、キミに飯でもおごってもらうかな」
と僕。「ああ、何でもおごってやるよ」
と友人は笑顔だった。まるで新しい世界を観るかのように。キーワードを出すことができた。
A『ミナミはどうするよ?』
ミナミ『あいつは俺のダチだ。明日金持って行くようしむける。いつも通り、俺にノルマはよこせよ』
C『ミナミさん今回はどうするんすか?』
ミナミ『いつも通りビデオで撮れ』
そう、僕は不良のリーダーだったが止める行為などしなかった。
夜、玄関で奪った三万円のうち、二万円とビデオを渡された。
その日の夜、暗い自室のテレビに映し出された友人。
蹴られ、殴られ、血を吐いていた。些細な抵抗はみてせいたが、一人の人間が三人に勝てるわけがなかった。
このとき僕はモニターが終わるまで、僕は微笑んでいた。
僕は、黒い自分のために全てを偽る…。
続く…↓
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