隈がある、少年と少女がいる。
酷い隈だ。
きっと眠ることが出来ないのだろう。
少年と少女は森にいる。
薄暗い、木漏れ日が漏れている。
綺麗なのだろう。
少年と少女は、眠れていない。
ゆえに、綺麗という感性さえ、鈍っている。
少年と少女がここにいる理由は、静かな罪を犯すためにいる。
誰にも、観られないように。
「ねぇ、シオン。シオンも眠れないんでしょう?」
少女は、森と浸透するように、呟く。静かで、綺麗な声で、気だるさを感じさせる。
「ハルも眠れない癖に。僕を森に連れ出してどうするつもりなの」
少年は、純粋に疑問に思う。「シオンの隈、治してあげようか。眠れないんでしょう?」
隈がある少女に説得力は、ない。でも、治してくれるなんて、どんな方法なのか疑問に思う。
隈があると、世界が歪んで見える。
壊れた世界のように、気が触れた世界のように。
きっと、彼女も同じだろう。
「僕の隈が治るってことは、ハルの隈も治るんだよね」
「・・・」
小さな沈黙が、あった。小さな鞄から、銀色の封筒の錠剤を取り出す。
「これ」
ハルが言った。森に見られている気がする。少し、怖かった。でも、ハルの手にした銀色の封筒、錠剤の方が気になった。
「シオン。これを呑むと、記憶が無くなるの。この意味、分かる?」
「つまり、これを呑んでしまったら、今、話した感情や言葉を忘却してしまうということ、だよね」
沈黙は、未来を不安にさせるものだった。眠れないことと、
薬を呑むことは、
私達に必要だよね。
でも、罪のような気がするね。
これが命を削るような行為であっても罪でも、ハルとなら、いい。
「うん」
僕は、純粋に頷いた。神様というものがいたとしても、僕はハルを信じたい。それが僕の純粋な気持ちだ。神様を超えた人間、ハル。
それが僕の、真実。
ハルは銀色の封筒の錠剤を取り出した。
中から、青い薬が出てきた。
「これを呑むと、全てを忘れるの。でも、眠れるんだ」
ハルの隈を見る。観ていたら、僕も少しだけ眠くなった。だって、僕にも隈がある。
僕らは、眠ることが出来ない。
「呑もうか」
シオン、つまり僕が言った。森は、まだ僕たちを静寂に見守っている。
微笑んでいるように見える。
ハルが、ペットボトルに入った水を取り出した。
「さぁ、眠ろう?」
「うん」
錠剤を2錠貰う、ハルからペットボトルを渡される。呑みこんだ。
ハルとシオンの、青い物語。
フラフラとして、綺麗な純粋な感情に溢れる。いや、感情が漏れる。
二人は、少しずつ近づく。
きす。
綺麗な、きす、をした。
それが全てで、僕は泣けてくる。笑えてくる。
気が付いたら、ハルも泣いていた。微笑んでもいた。
「この記憶が、消えちゃうんだね」
ハルとシオンが同時に言った。二人は、微笑した。泣きながら微笑した。
気が付くと、家のベットの上にいた。
全て、夢だったのか。
いや、夢ではない。
ポケットには、銀色の破れたものが入っていた。
夢でしか逢えない、ハル。
少し泣いて、夜を願う。
早く、ハルに逢いたい。
「きす」、そのことだけは覚えている。
ハル、今度、夢で逢うときは忘却した記憶の続きを見よう。
ハルも同じ夢を、見ていた。
ハルは、思う。
シオン。名前しか、覚えていないけど、貴方は私の心に、生きている。
また逢えると嬉しい。
ポケットには、銀色の開封したものが入っている。
滲んだ唇が、震えている。
ねぇ。
今夜は、夢の続き観ることができるかな。
夢でしか逢うことのできない、儚い旋律を、小さく胸に刻み込む。
青い森に、逃げよう。
誰もいない静寂な、青い森へ。
今夜逢うときは、隈が薄くなっている気がする。
ハルも、シオンも。
二人は一つだと、密かに思う。
続く…↓
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