青い物語 [1]






 隈がある、少年と少女がいる。
 酷い隈だ。
 きっと眠ることが出来ないのだろう。

 少年と少女は森にいる。
 薄暗い、木漏れ日が漏れている。
 綺麗なのだろう。

 少年と少女は、眠れていない。
 ゆえに、綺麗という感性さえ、鈍っている。



 少年と少女がここにいる理由は、静かな罪を犯すためにいる。
 誰にも、観られないように。

「ねぇ、シオン。シオンも眠れないんでしょう?」

 少女は、森と浸透するように、呟く。
 静かで、綺麗な声で、気だるさを感じさせる。

「ハルも眠れない癖に。僕を森に連れ出してどうするつもりなの」

 少年は、純粋に疑問に思う。

「シオンの隈、治してあげようか。眠れないんでしょう?」

 隈がある少女に説得力は、ない。
 でも、治してくれるなんて、どんな方法なのか疑問に思う。

 隈があると、世界が歪んで見える。
 壊れた世界のように、気が触れた世界のように。
 きっと、彼女も同じだろう。

「僕の隈が治るってことは、ハルの隈も治るんだよね」

「・・・」

 小さな沈黙が、あった。

 小さな鞄から、銀色の封筒の錠剤を取り出す。

「これ」

 ハルが言った。
 森に見られている気がする。少し、怖かった。でも、ハルの手にした銀色の封筒、錠剤の方が気になった。

「シオン。これを呑むと、記憶が無くなるの。この意味、分かる?」

「つまり、これを呑んでしまったら、今、話した感情や言葉を忘却してしまうということ、だよね」

 沈黙は、未来を不安にさせるものだった。


眠れないことと、
薬を呑むことは、
私達に必要だよね。
でも、罪のような気がするね。

 これが命を削るような行為であっても罪でも、ハルとなら、いい。

「うん」

 僕は、純粋に頷いた。

 神様というものがいたとしても、僕はハルを信じたい。それが僕の純粋な気持ちだ。神様を超えた人間、ハル。
 それが僕の、真実。


 ハルは銀色の封筒の錠剤を取り出した。
 中から、青い薬が出てきた。

「これを呑むと、全てを忘れるの。でも、眠れるんだ」

 ハルの隈を見る。観ていたら、僕も少しだけ眠くなった。
 だって、僕にも隈がある。


 僕らは、眠ることが出来ない。

「呑もうか」

 シオン、つまり僕が言った。

 森は、まだ僕たちを静寂に見守っている。
 微笑んでいるように見える。

 ハルが、ペットボトルに入った水を取り出した。

「さぁ、眠ろう?」

「うん」

 錠剤を2錠貰う、ハルからペットボトルを渡される。
 呑みこんだ。

 ハルとシオンの、青い物語。

 フラフラとして、綺麗な純粋な感情に溢れる。いや、感情が漏れる。


 二人は、少しずつ近づく。

 きす。

 綺麗な、きす、をした。
 それが全てで、僕は泣けてくる。笑えてくる。

 気が付いたら、ハルも泣いていた。微笑んでもいた。

「この記憶が、消えちゃうんだね」

 ハルとシオンが同時に言った。
 二人は、微笑した。泣きながら微笑した。




 気が付くと、家のベットの上にいた。
 全て、夢だったのか。
 いや、夢ではない。
 ポケットには、銀色の破れたものが入っていた。
 夢でしか逢えない、ハル。


 少し泣いて、夜を願う。

 早く、ハルに逢いたい。

 「きす」、そのことだけは覚えている。
 ハル、今度、夢で逢うときは忘却した記憶の続きを見よう。



 ハルも同じ夢を、見ていた。
 ハルは、思う。
 シオン。名前しか、覚えていないけど、貴方は私の心に、生きている。
 また逢えると嬉しい。
 ポケットには、銀色の開封したものが入っている。
 滲んだ唇が、震えている。



 ねぇ。
 今夜は、夢の続き観ることができるかな。
 夢でしか逢うことのできない、儚い旋律を、小さく胸に刻み込む。


 青い森に、逃げよう。
 誰もいない静寂な、青い森へ。


 今夜逢うときは、隈が薄くなっている気がする。
 ハルも、シオンも。


 二人は一つだと、密かに思う。



続く…↓

[2]





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