「でね、黒いお面をした人に追われて、もう逃げられないと思ってここの教室に戻ってくるの」
美保は親指を噛みながら言う。「そのあとは?」
真奈美が興味ありげに机から身をのりだす。「そこで夢は終わりなの」
「なんだよ、いいところで終わりやがって」
ユウジが言った。「ご、ごめん!最近同じ夢見るのにいつもここで終わりなの。見たらちゃんと話すね」
美保は焦っていた。「なーによ、ユウジの前だと急に可愛くなって」
真奈美が歪んだほほ笑みを向ける。そのセリフを聞かずユウジはどこかへ行ってしまった。「言っとくけどユウジは私のことが好きなの、知っているわよね」
真奈美は歪んだ笑みを近付けた。「知っているよ‥」
美保はユウジのことが好きだ。美保にとって真奈美は邪魔物以外なんでもなかった。夕方、七時に真奈美の家を尋ねた。今日の宿題を見せろと言われていたのだ。絶対真奈美には逆らえ ない。逆らえばユウジに何を言われるか分からない。ユウジに嫌われたくなかった。それだけユウジのことが好きな のだ。
「真奈美なら学校に行ったわ、宿題を忘れたのですって」
真奈美の母が応じた。 美保は学校に向った。赤い夕日に照らし出された学校は綺麗だ。教室に向う。真奈美がいた。ユウジの机の中を漁ってい る。次々に道具を隣の美保の机の中に移している。美保に道具を盗んだという濡れ衣を着させユウジから嫌わせよ うとしていたのだ。このとき、美保の中で何か変わった。「ねぇ‥」
美保は暗く低い声で話し掛けた。真奈美はビクッと体を震撼させた。その拍子に手に持っ ていたマイナスドライバーを落とした。「‥美保何してるの?」
「宿題を」
「そんなことのために学校まで来たの、どうかしているわ」
ドライバーは美保の足まで転がっていた。それを拾う。右の棚には、発表会で使うお面 がある。それを被った。美保にとって無意識な行動だ。そして、お面は黒かった。
「何よ」
ゆっくり真奈美に近づく。真奈美はユウジの机から素早く離れる。 美保は追い掛けた。真奈美は逃げる。右手のドライバーを頭の上へ振りかざし追い掛けた。夜の 学校は暗く、非常口の緑色のランプだけが悪戯に光っている。真奈美が後ろを向いたとき その光が黒いお面を照らした。
美保はまるで死神のようだ。
逃げる。
階段を上下していくうちに自分の教室に戻って来ていた。美保はまだ追ってくる。もう息が続かない。もう逃げられない と思い教室に入った。「・・・・」
真奈美は美保の夢の話を思い出した。 思い出したとたん、躓いて転んでしまった。見上げると、死神が立っていた。斧を振りかざすようにドライ バーを真奈美の首へ。そしてドライバーを抜いた途端に噴出す赤黒い血が美保の素顔を、染めていく。これが本当の黒い仮面 だったのかもしれない。最近自分の道具が無くなるので掃除用具入れに隠れていた。そこでユウジは事の真相を知ると 同時に、美保の夢の続きも知った。