散らかる、世界






粉々になった硝子を見た時、笑えた。
ビルの三階から、コップを次々と落とす。

コップを落す瞬間、物質という儚さに胸を擦る。
抵抗できない、物質。

哀れなり。

一cm、手を空ける。
地上めがけて、するりと、手から滑る。
その落下を止めることはできない。
ただ、ひたすら、落ちるだけ。
その行為に、全く意味がない。

意味があるとしたら、壊れるために落ちるだけ。
壊れた瞬間、華麗な音が鳴り、砕け散る。
太陽日に照らされ、輝く硝子になる。

ただ、ひたすら輝いて。
ただ、ひさすら残骸で。

ビルの三階から、眺めると大切なものを壊した気分になる。
胸を焦がす。


純粋に、美しさを求める。

僕の後ろには大量のコップが置かれている。
次はどれにしよう、迷う僕は薄笑いを浮かべている。


その衝動は、自分に跳ね返ることは知っている。

地面に落ちたコップの破片が、ビルの三階にいる僕にまで跳ね返る。次々と、刺さる。赤い、黒い、血が滴り落ちる。
それでも、僕はコップを落す。
傷つくのは解かっていても。

最初は、ひどく美しいだけなんだ。
知らぬ間に傷が付く。



そして、何人の人間が現実の世界で、このような比喩を理解できているのか疑問に思う。





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