刺す、ある日常。。






 今日、真昼の12時に目が覚めました。


 昨日、いや今日の就寝が、夜中とも朝ともいえない5時でした。
 部屋の中の電気を全て消すと、窓からは朝の木漏れ日が差し込んできました。太陽の光に、刺されるといった感覚を覚えました。
 太陽の光が私を刺し続けるので、水色のカーテンをしめました。水色のカーテンを閉め切っても、無常にも隙間から光が差し込んでました。

 私は諦め、布団に入りその光を観ていました。
 光の線、光線です。そこには、光によって映し出された埃が動き回っていました。私は、その埃に対して苛立たしい感情を覚えました。手で埃を振りかざします。そしたら、埃が狂ったように踊るのでした。

「はぁ」

 ため息を静かにつき、私は布団に潜ります。
 常に暗い、闇の世界は私を奇妙に落ち着かせてくれました。
 気がついたときは睡魔に襲われ、寝てしまいました。


 そして、真昼の12時起きます。


 憂鬱な瞼を開け、ゆっくり身体を起こしました。
 そして、6時間前に閉めたカーテンを開きました。当たり前というとそれまでですが、また光が私を刺しました。埃も蘇ります。

「ぐー」

 お腹が、犬の唸り声のように唸ります。これはお腹がすいたのだ、ということをゆっくり自覚しました。
 埃を裂いて冷蔵庫に向います。観ませんでしたが、私が通りすぎたあとに、またしても埃は踊り狂っていたことでしょう。
 冷蔵庫を開けます。

「ふ」

 思わず声が出てしまいました。
 ニンジンしかありません。私は兎だったのかと、しばらく自答したあと、やはり私は人間だという結論に辿り着きました。あやうく、アヒルが兎になるところでした。

 コンビニにお昼を買いに行こうと、黒いズボンに、黒いパーカー、黒いニットを被り、外に出ました。アパートの階段を一定の速さで駆け下りました。タンタンタン。このリズムが頭を活性化させてくれました。

 自分で作った一定の音楽。

 それ以上でも、それ以下でもない基準。



 太陽に照らされ、全身が黒いということに初めて気がつきました。熱が私の身体の温度を上げていきます。私は今日も生きているのだ、それをリアルに実感させていただきました。

「・・って、暑い」

 小声で愚痴を言いながら歩いていると、交差点で面白い光景を目にしました。
 幼稚園児が、先生と一緒に募金をしているではありませんか。
 注意深く観ると、赤い羽根の募金だそうです。
 チームは2編成でした。幼稚園児3人に先生が1人付いているシステムになっていました。
 さぁ、バトルの開始です。
 幼稚園児達は揃って、

「赤い羽根の募金に、きょーろくしてください」

 と呪文を一定の速さで繰り返し、無差別に撒き散らしています。
 周りの人々はそのあどけない姿に心を打たれ、募金をしているようです。
 私の中では、募金をしてしまったら負け、という勝手なルールが自然に出来ました。人々は次々に募金していきます。皆、幼稚園児の魔力に、呪文にやられているようです。

「ちっ」

 舌打ちをして、幼稚園児がいる交差点に向います。
 私はこの世で、愛(恋)、犬、子供、が一番嫌いです。観ているだけで、嫌悪感を覚えます。

 きっとそのような嫌悪感から、自分の中でルールを作ってしまったのでしょう。そう、これは私の偏見の戦いです。


 あと10メートル、あと5メートル。
 募金をしていく人々。
 なぜか、心拍数が上がっていきます。緊張に似た感覚が胸にありました。

「きょーろくしてください」

 まだ言っています。
 ふ。
 その呪文の回避法を解かった。歩くタイミングを台詞の終わりに合わせれば、一瞬の間が空く。その瞬間に歩き去ってしまえばいいのだ。

 あと3メートル。1メートル。

「〜〜してください」

 今だ!
 目線は、直線を向き歩き、けして横を見ない。私の世界から幼稚園児を消す。

 通った。


 この時点で私の勝ちでした。
 人間は勝ったあと、安堵に襲われます。私もその類で、気を抜きました。

「ほら!もっと大きな声出しなさい」  なんだ、この呪文は・・。予想外だ。私は不意打ちを食らったようによろけました。消したはずの幼稚園児がそこに再び現れました。
 その声の主は、先生の声でした。

「ひっ。うえーん・・」

 3人の中の1人が泣き出しました。
 えーん、えん、えん。

「声出さないから、黒い人が行っちゃったでしょ!」

 黒い人・・。って、私のせいですか。
 周りの人々がその幼稚園児を哀れんだ表情で、観ていました。1人の幼稚園児が世界を止めていました。
 時間を動かすことの出来る唯一の人間はきっと、私でした。

 次の瞬間には私は動いていました。
 財布から10円を取り出し、募金箱に静かに、平静を装っておれました。
 泣いていた幼稚園児が、泣くのを止め、鼻水を垂らしながら私を見ていました。

 ・・ガキ。

 その場から立ち去ろうとした瞬間、またガキは呪文を唱えたのでした。

「赤い羽、どうぞ」

 静かに手を伸ばしました。ガキと、指が微かに触れました。
 先生が私に向って、軽くお辞儀をしてくださいました。私も、頭を下げそこから離れました。

 周りの人から密かなざわめきが起こりました。
 その赤い羽にはピンが付いており、歩きながら黒い服の胸の部分に、刺しました。ガキ、お前、私に黒い服に赤い羽、を刺すなんていい度胸している。
 黒い服から針が貫通して、肌に刺さりました。

 光が刺さったとき、私はカーテンを閉じました。
 しかし、針がちくちくと胸を擽っても外しませんでした。

 おそらく、外には踊り狂っている埃があります。
 私はその埃を大きい深呼吸とともに吸い込みました。

「さぁ、お昼は何にしよう・・」






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