■リリ編■ [7]






 僕は今、暗闇の中を歩いている。暗闇は、やっぱり黒くて見えるものが少ない。
 僕の存在は小学校のとき終わったんだ。あのときの、錯覚は現実のものになった。自分って何なんだろう、ただそれだけの錯覚だったんだ。
 小学校。

 あのときから、僕はおかしかった。特に転校してからさらにおかしくなった。確かあのとき、ユリという人間がいてひどい事したな。毎日、ユリはカバンにアヒルの人形をつけていて、僕が壊したんだ。口の部分をカッターで切って、綿を出したな。ユリはひどく泣いていたな。

『どうしてそんなことするの!』

『おばあちゃんに買ってもらったのに!』

 そんなセリフ言っていたっけ。もうよく覚えていないや。


 …あれ?
 どうしてそんなことしたんだっけ。ユリが憎くなったからだよね。
 憎くなった理由。
 思い出した。僕の秘密を知ったからだ。だから追い込んだんだった。
 ちょっと追い込んでみたら、不登校児になっちゃうんだもん。笑ったなー。

 高校。

 高校になったら僕はひどくおかしくなったな。彼はまだ僕を覚えているのかな。
 くそ…。僕をめちゃくちゃにした、彼。
 名前は『ミナミ』だ。あいつは演技をして、世間を騙していた。もちろん僕も含めてだけど。絶対、ミナミを許さない。
 僕は、そのときからミナミを殺すって決めたんだ。

 殺すって言っても、僕は自分からは手を下さない。自殺させてやる。そのためには、ミナミの秘密を知って、間接的に追い込む。秘密…、僕はもう知っているじゃないか。
 彼は今、ユリと交流を持っている。ユリと僕が交流を持っていたことをミナミは知らない。
 そんな情報は、嫌でも耳に入ってくる。
 なぜなら、僕の友達が彼の彼女だから…。

 彼は僕のように、精神がゆがんだ人に興味を持っている。ユリもその対象の一人。
 性同一性障害。僕の病気。

 僕は女なんだけれど、男なんだ。
 彼はそんな僕を、女にしてしまった。…はっ、はっ。考えただけで息が詰まる。薬を飲まなくちゃ。スルピルト。
 僕から言わせて貰えば、彼もだいぶ精神を病んでいる。そして、それが世間に知れることを恐れている。それを利用するんだ。

 続く…





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