無題小説






 学校の帰り道、友人と他愛のない会話をしているときに、私は自殺を考えた。
 素晴しい作品に当たり前に感動して、くだらない作品に失意を覚えて、友人との普通の会話に、異様な感覚を覚えてしまったのだ。一言で言うなら、「飽きた」という感覚に似ていた。

 季節は梅雨に差し掛かり、湿度や気温は人間を不快にさせる。
 こんな中、にこやかに話す人間を私は異常だと感じてしまった。一般的に言うのなら、異常なのは私のほうなのだろう。

「昨日さー、TVでお笑い観た?あいつ、マジバカなんだけどー」

 

「うん、ちょーバカ」

 話に適当に合わせて歩いていく。湿度のせいで、身体に汗がじんわりとこびりつく。
 こんな世間話は、ただの生きる暇つぶしでしかない。それに翻弄して、真剣に話す、この人を、「ちょーバカ」だと思う。

 自殺はたぶん簡単ではないだろう。
 私は家族と住んでいる。首吊りや、手首を切ったとしても、見つかる恐れが大いにある。それに、そんな行為を見られてしまったら、精神科に入れられてしまうだろう。前にニュースで見たことがある。精神科に入れられた人間は、自殺予防のために、手足をベッドに縛られて身動きの出来ない状態になってしまう。それは必ず避けなければならないものだった。裏を返せば、自殺を成功させなければいけなかった。

「ねー、凛。さっきから聞いてんの?」

 ちょーバカの話を無視してしまっていた。心から、ちょーバカ、ごめん。と思った。

「うん、うん。聞いているって」

 ちょーバカの顔はお化粧が満遍なく塗られていて、元の顔が分からなくなっていることに気がついた。そういえば、ちょーバカの素顔、見たことがないやと思った。その瞬間「どうでもいいや」とも思えた。

「だからー、凛さー。さっきからボーっとしまくりじゃねー?」

「ちょーバ・・、アスカの顔に見とれていたんだよ」

「はぁ?マジうける、あたしに惚れたのかよー」

 ちょーバカは、超バカそうな顔で、私の顔を覗き込んだ。私は口を何かに引っ張られたように、笑顔を作ってこう言った。

「・・超、惚れた」

 やっぱり、死にたいと思った。19才の梅雨。

 アスカと別れた後、私は道に吐いた。昼間に食べたものを、道にぶちまけた。
 立ち上がり、大きな、大きな空を見上げる。小さな私を笑っているように感じる。

「ちきしょう」

 私は小さく呟く。


 続く・・・・

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