この手で、開くもの






 暗い部屋。
 何も見えない部屋で、会話が聞こえる。
 耳を澄まして聞いてみる。
 その声は、メトロノームのように一定の早さで聞こえてくる。


「死にたいって誰かに言う人間はさ」

「うん」

「きっと、死にたくないんだよ」

「うん」

「その人に助けてもらいたくてさ、言っているだけなんだと思うな」

「うん」

「裏を返せばさ、その人のことを信用しているんだよね」

「うん」

「この人なら、助けてくれるって確信しているんだよ」

「うん」

「世界情勢だって、同じだよ」

「うん」

「自分を傷つけてまで、相手に観てほしいんだ」

「うん」

「怖がらしているだけでさ、本当は弱い奴らなんだ」

「うん」

「核爆弾を持っているとか、化学兵器を持っているとか、裏を返せば仲良くしたいだけなんだよ」

「うん」

「別に憎んだりしていなくてさ」

「うん」

「人は皆、寂しがり屋なんだ」

「うん」



「僕は、痛いんだ。心が」

「うん」

「病んでいるとか、そんなんじゃなくて」

「うん」

「寂しいだけなんだ」

「うん」

「君の手首の傷は、僕に何を伝えているの?」

「君にも、心に傷があるよね」

「うん」



 ひたすら、自分と向き合う。脳という、小さな個室で。


 自分に言い聞かせて、納得させて、落ち着かせて、平静を保ち、心を感じる。
 美しく燃える心を、美しく焦がそう。

 最後に観るものは、自分自身だから。








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