青の物語 [7]






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 森に、革命が起きた。
 それは、自然に。偶然に。必然に。
 森は、鼓動を起こした。
 それは、鎮魂歌のようだった。
 動き出した。それだけだ。

「この青い森に、終わりってあるのかな?」

 シオンは犬のような泣きそうな目で、ハルを見つめている。

「世界の終わりを、信じるの?シオン」

 ハルは、静かに微笑みを浮かべ、シオンを撫でている。

「だって、さっき森がさ・・・」

「そうね。地震みたく揺れたね」

「ハルは、怖くないの?」

「怖くない」

 どうして怖くないのだろうと、シオンは思った。
 ただ、不思議だった。
 怖いものは、何も無いのかなと、思っていた。

「ねぇ、ハル」

 シオンは聞いた。

「ハルの怖いものって、何?」

 ハルはシオンの頭を、犬のように撫でて、言った。

「空気」

 どうして・・?

「空気が無かったら、私達の声すら聞けないでしょ?音は空気がないと生きられないのです」

「そうなんだ・・」

「私はね、シオン。君の音が聞きたいの。君の声が、聴きたいの。いつまでも・・。だから、空気は天敵なんだよ」

「僕は、音なんだね」

 シオンはにっこり笑う。

「じゃあ、ハルは・・、何・・?」

 ハルは突発的な質問に、戸惑っているようだった。
 ハルの目に、力が入った。

「私は、宇宙」

「宇宙?」

「そう。空気を吸い取ってあげるの。そしたら、そこで星を生み出して、青い森でも、何でも作れちゃうでしょ」

「そうだね」

ハルは、シオンを包む。
シオンは、ハルを包む。
青い森は、二人を包む。

静寂は、全てを包み、安全ピンで小さな穴を空けた。
それが、ハルの行為なのか、シオンの行為なのか、青い森の行為なのか、または誰かからの行為なのか、分からない。
青い森に、暗黒の光が差し込んだ瞬間だった。
青い森は一瞬にして、暗黒の森に、なった。



それは、まるで、宇宙のようだった。









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